2023年5月、私は伯父・大澤雅休と父・竹胎の作品コピーを持ってパリにあるルイ・アラゴン記念館を訪れた。70年ほど前、両人がアラゴンの詩を題材に書作品*)を制作したからだ。パリへ行く飛行機の中で、私は思い出したことがあった。父・竹胎は展覧会の前になると、小学生の私に作品を書かせた。私はそれが嫌でたまらなかった。父親の身勝手な思いで娘に作品を書かせ、賞を取らせて喜んでいるのだと思っていた。しかしそれは全くの誤解だったかもしれない。「アラゴン平和の歌」の仮名が、私の小さい頃の文字と似ているのだ。ひょっとしたら、竹胎は私に仮名を書かせ、子どもがどんなふうに書いていくのかを観察していたのかもしれない。1953年に兄雅休が他界した後、一人残された竹胎。必死に自分の想いを書き留めようとして、この大作を書き上げ、第七回毎日書道展に出品、その一か月後に急逝した。1955年9月のことであった。
*参考資料:
書作品ページ: 雅休コレクション「鎧戸-アラゴンの詩-」、竹胎コレクション「アラゴン平和の歌」