これはむづかしいことだが大切のことだ。淡墨でも濃墨でもあるが、すつかりかはいて、表装までした時のすがたが出来あがりだ。淡墨の場合は少しくつよく凛として利いた線でかくのがよろしい。濃墨の場合は少々緩徐にふんはりと、一寸見るとばかみたやうにかいてよい。それで丁度よくしまるものだ。筆力が加はらぬと鈍る。墨色が出ぬ。スピードをつけて、沈着すれば断然美しく、紙面が余白が純白に見える。

 出来あがりの予想のつくのは余力、余裕のことである。そこまで考へてゐることだ。それは私のやうに永い経験によつてわかることだが、はじめからさういふ原則があることを知つてゐれば、早くそのコツがのみこめるのである。

「定本 大澤雅休・大澤竹胎の書」 教育書籍(昭和56年発行)大澤雅休ノート(一)より
注* 表記は原文のままとした